宣教師ルイス・フロイスが日本を訪れ、安土城で信長に謁見したときのことです。
そのとき信長は、フロイスに一言も言葉を掛けませんでした。
信長の様子は、手で合図するだけで家臣を動かしたり、一言声を発するだけで即座に何人もの家臣が返事をし、意のままに操っていた。とても奇妙な光景であった。
と、フロイスは自らの見聞録『日本史』に記しています。
その後、フロイスは岐阜城に招待され、再度信長と謁見しました。
会談途中で信長が席を立ったので、フロイスは謁見が終わったと思い、退室の準備をしていました。
すると、自ら食膳を持った信長が現れたのです。
そして、通訳を通して「何もおもてなしができないが食事でも」と伝えてきました。
自ら膳を運ぶ信長など、家臣も見たことが無かったのでしょう。
その家臣たちの驚いた様子もフロイスは『日本史』に著しています。
フロイスに初めて会ったときに言葉を掛けなかったのは、遠い地からはるばるやってきた異国人にどう接していいか分からなかった。
親しく声を掛けるとキリシタンになる意思があると勘違いされるのではないかと考えたからだと、後に信長自らが語ったといいます。